リグニンとは
リグニンの機能
リグニンの原料
モノリグノールからリグニンへ
リグニンとは
植物は細胞壁の集合体といえます。この細胞壁を構成する主要成分は、セルロース、ヘミセルロース、そしてリグニンです。リグニンは、セルロースに次いで地球上で2番目に多く存在している有機物ですが、これまで有効活用されていません。
リグニンは植物細胞壁にとってなくてはならない物質です。これまでの研究から、植物細胞壁の構造は以下のように考えられています。
*あくまで模式図です
細胞壁は鉄筋コンクリート構造物と非常によく似ています。セルロースは鉄骨、ヘミセルロースは針金、そしてリグニンはコンクリートの役割を果たしています。
*あくまで模式図です
セルロースとヘミセルロースは多糖類であり、リグニンはフェノール性のポリマーです。これら2つの異なった性質を組み合わせることで、様々なストレスに耐えられる細胞壁を形成していると思われます。
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リグニンの機能
リグニンは細胞壁において以下の3つの機能を果たしていると考えられています。
・通道組織の疎水化
・細胞壁の強度付与
・昆虫や微生物に対する抵抗性
植物は、根から最上部まで水を運ばなければなりません。通水組織を疎水性にすることで、通水性を向上させることができます。また、葉からの水の蒸散によって陰圧が発生するため、通水組織はその力に耐えうる強度が必要です。さらに、植物が巨大になると、自分自身を支える強度も必要になってきます。細胞壁のセルロースやヘミセルロースは多糖ですので、微生物などにとっては良い栄養源となります。この多糖を包埋して保護しているのがリグニンです。
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リグニンの原料
リグニンの原料はモノリグノール類(p-ヒドロキシケイ皮アルコール類)およびその関連物質です。これらが細胞壁中で重合してリグニンとなります。モノリグノール類には、コニフェリルアルコール、シナピルアルコール、p-クマリルアルコールの3種類があり、また、関連物質にはアシル化されたモノリグノール類やフラボノイド類があります。
植物の種類によって、使用されるモノマーが異なります。
シダ植物、裸子植物: コニフェリルアルコール
被子植物(双子葉植物): コニフェリルアルコール、シナピルアルコール
被子植物(単子葉植物): コニフェリルアルコール、シナピルアルコール、モノリグノール関連物質
(p-クマリルアルコールは針葉樹の圧縮あて材(曲がった樹体の下側にできる異常材)やイネ科植物に多く含まれますが、多くの場合はマイナーです)
植物は、シダ植物から裸子植物、双子葉植物、単子葉植物へと進化していますので、リグニンの構造は進化に伴って複雑化しているといえます。
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モノリグノールからリグニンへ
モノリグノールは細胞内で生合成された後、細胞膜を通過し、多糖マトリックス中で重合することでリグニンとなります。細胞内で行われるモノリグノールの生合成では、様々な酵素が関わっております。一方、細胞外で行われるモノリグノールの重合では、ラジカルの生成のみ酵素が関与しますが、そのあとの重合過程は有機化学的に行われるものと考えられています。
リグニンはモノリグノールラジカルを経由して重合します。しかしながら、一般的なラジカル重合とは少し異なります。
以下にスチレンとコニフェリルアルコールを例にした場合を考えてみます。
スチレンをラジカル重合しますと、ポリスチレンが合成されます。コニフェリルアルコールはスチレンに構造が似ていますので、ラジカル重合でポリコニフェリルアルコールが合成できそうですが、実際にはこのような反応は起きません(ここでは、スチレンのラジカル重合に関しては詳しく述べませんので、教科書などを参考にしてください)。
コニフェリルアルコールは酸化酵素(ペルオキシダーゼ、または、ラッカーゼ)によって、フェノール性ヒドロキシ基がラジカル化されます。このフェノキシルラジカルは、共鳴により4種の極限構造を持ちます。
この4種の極限構造のうち、2つがカップリングすることによって、二量体(ジリグノール)が合成されます。主な構造は以下の3種類になります。
2つのラジカルがカップリングする反応はラジカル重合の“停止反応”に対応します。見てお分かりのように、ラジカルカップリングが行われることにより、ラジカルが“消去”されてしまいます。従って、高分子化を進行させるためには、このジリグノールを再度ラジカル化しないといけません。ワンステップごとにラジカルを生成させるという、非常に手間のかかる、いうなれば、植物は、“非効率な重合方法”を行っているのです。
二量体形成時で3種類の構造ができますので、ラジカルカップリングにて三量体が合成されるときには、さらに多くの異性体が形成されます。
このようなラジカルカップリングを繰り返してリグニンは形成されていきます。いくつもの結合様式が存在するため、リグニンは“繰り返し単位を持たない、非常に複雑なフェノール性ポリマー”になることがお分かりになるかと思います。
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